キャリア教育交流学習会

 11月21日(金)の3・4校時に今年度のキャリア教育交流学習会が行われました。一昨年から始まったこの学習会では、これまで、24年度には童話作家の茂市久美子さんとめんこいテレビアナウンサーの千葉絢子さん、25年度は、フランス料理のシェフ伊藤勝康さんとチェアスキーヤーの横澤高徳さんをお迎えして、自分の夢の実現に向けた体験談や思いをお聞きして、自分の将来についてのイメージ作りを行っていました。
 今年度からは、自分の夢をかなえた人は実は身近にもいらっしゃることを知ってもらうとともに、保護者や地域の方々が携わる様々な職業の素晴らしさを理解してもらうため、今回は本校の保護者でPTA副会長の菊池政光さんに講師をお願いしました。
 菊池政光さんは、装蹄師として県内外で活躍している方です。競走馬や乗用馬の装蹄師の仕事をしている方は岩手県内に10名ほどで、遠野市には政光さん1人だけです。
 始めは、装蹄師の仕事を実際に見てもらおうと、わざわざ「バイキング号」という白い馬を連れてきてくださいました。実際に削蹄(爪を削る)の様子や蹄を打ち付ける様子に、子どもたちも驚きの表情でした。真っ赤になるほど熱せられた蹄鉄を馬の蹄に合わせていくのですが、その時の「ジューッ」という大きな音と独特の焦げた匂い、巻き上がる煙にまたまたびっくりしていました。さらに、馬は全然熱さを感じないと聞いて、またまたまたびっくりしていました。

作業を見学した後には、図書室に場所を移して政光さんの体験談を聞きました。
 政光さんは小さいころから馬が大好きで大好きでしょうがなかったということです。実際に、本校で開校当時から発行している全校文集「ふどうっ子」を見てみると、政光さんは2年生の時から6年生までの5年間は全部馬に関する作文でした。

 政光さんは、小学校入学前からお小遣いやお年玉、そして大根の収穫や洗い方・箱詰めなどの手伝いをしたお金をためて、小学校3年生の時に自分の馬を買ったそうです。当時のお金で30万円ほどしたそうですが、小学生が買うことに感心した持ち主が20万円に値引いてくださったということが書かれてありました。政光少年は、その馬を「スピード」と名付け、とても可愛がりました。やがて、「スピード」は仔馬を産みます。その仔馬「ハヤヤス号」は2歳になった年に競りにかけられ売られていきます。馬を買うまでの頑張りや初めて「スピード」を見たときの胸の高まり、そして「スピード」と過ごす日々の喜び、「スピード」に仔馬が生れた時の感動やその仔馬が競りで売られていくときの悲しさやせつなさが5年間にわたり、まるで長編小説のように鮮やかに書かれています。政光少年の馬に対する思いや愛情の深さに思わず心を打たれてしまいました。

 政光さんは、高校卒業後、馬に関する仕事に就くために宇都宮にある装蹄師の専門学校に入学したそうです。日本でただ一つの学校なので、全国各地から装蹄師を目指す人たちが受検するとのことです。政光さんは、150人試験を受けて合格者は15人という狭き門を見事突破して、装蹄師の道を歩むことになりました。
 政光さんの話では、馬は生き物なので、「バイキング号」みたいにおとなしい天使のような馬もいれば、噛みついたり蹴飛ばしてきたりするような悪魔のような馬もいると話していました。実際に政光さんも、足を踏まれて骨折したり、顔をけられてあやうく失明しそうな危険な目にも遭ったそうです。でも、どんな馬でも愛情をもって接していれば、気持ちが通い合うことを信じているとのことでした。

 今の仕事は大好きな馬と関わっているので常に楽しいと感じているそうです。仕事の範囲は幅広く、市内だけではなく水沢や宮城・福島まで出かけるそうですが、朝早く起きることや遠くに出掛けても日帰りしなければならないことも苦にならないそうです。
 好きなことを見つけて仕事にできるのは本当に素晴らしいことだなと政光さんの話を聞きながら感じました。茂市久美子さんも千葉さんも伊藤シェフも同じことを話していたことを思い出しました。子どもたちも今の時点で将来の夢や職業を考え始めているようです。ぜひ実現させてほしいと思いますし、たとえ一つの夢が実現できなくてもチェアスキーヤーの横澤さんのように、諦めずに新しい夢を見つけてチャレンジしていくような心豊かでたくましい人間になってほしいと思った今年のキャリア教育交流学習会でした。政光さん、本当に興味深いお話ばかりでした。ありがとうございました。

 この日、政光さんに装蹄された「バイキング号」は、22日に綾織町でSL銀河と並走しました。遠野テレビの映像では「バイキング号」は、新しい蹄鉄をつけてもらい嬉しそうに走っているように見えました。